『ラテンアメリカ 1968年論』  小倉 英敬 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『ラテンアメリカ 1968年論』  小倉 英敬

 1968年は、世界的に様々な歴史に記憶される現象が起きた年である。米国のベトナム戦争反対、チェコの「プラハの春」、フランスの五月革命、中国の文化大革命、日本での全共闘等学生運動の過激化などのほか、特にラテンアメリカにおいては、キューバ革命の影響、「進歩のための同盟」、従属論、解放の神学などがあって、メキシコでは学生運動を弾圧したトラテロコの夜」事件、ペルーではベラスコ左翼軍事クーデタ、キューバでも反革命を詩人・文学者「パディージャ」批判が行われ、チリでは農地改革による農場接収と政党間の対立激化が70年のアジェンデ政権成立に繋がり、パナマでは運河をめぐるナショナリズム、反米感情の高まりがトリホス中佐のクーデタによる政権奪取とパナマ運河返還交渉の進展に進んだ。ブラジルでは64年に発足した軍事政権に対する都市ゲリラの武力闘争が激化し、アルゼンチンでもフアン・ペロンが国外に亡命している間の66年の軍事クーデタで発足したオンガニア政権へのモントネロス等の都市ゲリラ闘争が活発化、ウルグアイも同様にトゥパマロスが武闘を繰り広げた。
 これら「1968年現象」は、資本主義国においては先進国・開発途上国を問わず中間層の若者が主体になった叛乱だったと見れば、その後の経済成長で増大した新中間下層が雇用が不安定化した場合に特に労働者層や貧困層が社会変革を求める重要な主体的要素になる。この十数年「中間層」を経済成長の基盤と位置付けて、その拡大と社会的定着を政策目標に掲げる政権が世界各地で登場してきた所以であるとする、横断的な歴史考察に基づく示唆に富んだ労作である。
                                  〔桜井 敏浩〕

 (新泉社 2015年11月 414頁 3,200円+税 ISBN-978-4-7877-1509-8 )

 〔『ラテンアメリカ時報』2016年秋号(No.1416)より〕