『奴隷船の歴史』   マーカス・レディカー | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『奴隷船の歴史』   マーカス・レディカー

本書の原著が刊行された2007年は、英国で公式に奴隷貿易が廃止されて200周年に当たる。翌1808年に米国においても廃止されたが、15世紀末から19世紀までの間の400年間に主に西・中央アフリカから1,240万人が拉致されて奴隷船に積まれ、大西洋の凄惨な航海中に180万人が死んで海に捨てられ鮫の餌になり、1,060万人が米州・カリブ地域のプランテーションに送り込まれ、彼らのほとんどは、反乱に成功してアフリカ海岸に漂着できた極めて例外的な事例を除き、二度と故郷を見ることがなかった。
奴隷船の多くは英国と米国の商人が送ったもので、奴隷は70%が英国のカリブ海の砂糖生産地の島々(その半分はジャマイカ)に、かなりの数がフランス、スペインの商人に売られた。北米へは約10%がサウスカロライナやジョージア等に送り込まれた。奴隷たちは新大陸で砂糖・煙草あるいは米の生産や鉱山での採掘に酷使されたのであるが、本書はあくまで奴隷船そのものとその航海に着目し、船上での船長と乗組員、水夫たちと奴隷の関係、部族も階級・性別の異なる奴隷となった人たちの対立や協調の関係、奴隷船の構造や変化などを具体的な様子を、さらに奴隷貿易廃止運動のために船乗りたちから船上での体験を聴取し、奴隷貿易・奴隷制で権益を受けていた大商人・プランテーション所有者・銀行家・政府の役人達によって構成される大機構に挑戦した人たちの記録に因って、組織化された奴隷貿易の暴力と恐怖を明らかにしている。
英国・米国でも奴隷貿易と奴隷制が自分たちの歴史の一部であることが認識されつつあるが、海賊など大西洋史を専門とし、闘う歴史家と謂われている著者による優れた歴史解説書。

〔桜井 敏浩〕

(上野直子訳 みすず書房 2016年6月 440頁 6,800円+税 ISBN978-4-622-07892-0 )