『ブラジル民主主義の挑戦 -参加型制度の実践と社会変容』 佐藤 祐子 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『ブラジル民主主義の挑戦 -参加型制度の実践と社会変容』 佐藤 祐子

若手研究者の現地体験に基づく研究成果発表の機会としたシリーズの1冊。神戸大学大学院で国際政治を専攻し、現在米国の大学院博士課程で学ぶ著者が、2013年にブラジリア大学に留学していて、サンパウロで起きたバス料金値上げ、アマゾン河支流のシングー川でのベル・モンテ水力発電所建設に反対する先住民の抗議デモ、すなわち市民と国家との争いを目の当たりにして、代表制民主主義国における市民の政治参加、市民の声を政治過程に反映させる方策として、ブラジルにおいて労働者党(PT)政権が取り組んだ貧困層をはじめとする市民の政策決定プロセスへの直接参加を目的とした「参加型制度」を考察したもの。
国内における所得格差が世界で最も大きい国の一つであるブラジルにおいて、カルドーゾ政権以降大規模な貧困削減のための社会政策が打ち出されてきたが、それとともにルーラ政権下で地方自治体レベルでの市民の直接的政治参加を促す「参加型制度」拡大が国策レベルで行われた。その成功例として南部のポルトアレグレ市での、住民が市の予算の審議・決定・実施プロジェクトに参画する参加型予算制度が挙げられるが、本書ではその経緯・制度デザイン・その変容と問題点、実効性について事例をもって考察している。環境政策については、環境活動家であったシルヴァ環境相の就任と辞任・交替の国家環境審議会への影響、そして軍事政権時代から存続していた国家政策審議会の事例の比較検討により、制度デザインの持続と実効性ある参加型制度の維持を論じ、サンパウロ等全国規模で起き、ルセフ大統領の弾劾に至った大規模反政府抗議運動に触れ、市民社会によってもたらされる社会的圧力が、実効性の高い参加型制度維持のための鍵となる要因であると結んでいる。
〔桜井 敏浩〕
(風響社 2016年10月 63頁 800円+税 ISBN978-4-8949-792-2 )

〔『ラテンアメリカ時報』2017年春号(No.1418)より〕