『マフィア国家 -メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』  工藤 律子 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『マフィア国家 -メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』  工藤 律子

 英国の調査機関によれば2016年のメキシコで起きた殺人件数は約26,000件、内戦中のシリアに次ぐ。その主因は麻薬カルテル絡みというが、もはや「麻薬カルテル」という呼び名は的外れで麻薬、違法薬物をはじめ武器密売、石油横流し、臓器売買、DVD等海賊版販売等のビジネス、そして誘拐を展開している。それを可能にしているのは、政治家、企業、警察、司法関係者を含む公務員との直接・間接ネットワークであるが、双方の関係が組織的に安定していたPRI(制度的革命党)一党独裁時代が終わり、2016年カルデロン政権下で軍・軍警を投入しカルテルと対峙して以来、大企業化したカルテル同士と三つ巴の「麻薬戦争」により、標的は一般市民に無差別に及ぶようになった。
 麻薬戦争の一番の犠牲者は子どもであり、暴力が子どもたちを飲み込み麻薬犯罪組織に入る若者は若年化し、孤児や誘拐によると思われる失踪者、性的目的での売買の犠牲になる女性が激増している。これらに対して、メキシコ等で貧困層、ストリートチルドレン問題の取材に関わってきたジャーナリスト(『マラス-暴力に支配される少年たち』 集英社 2016年 の近著もある)が、家族を探す人々、NGO、市民運動家、ジャーナリスト等、多くの立ち上がる人々にインタビューしたのが本書である。特定の犯罪組織が一定の地域を制圧し、国家機関内部の人間と結託した時にのみ「マフィア的平和」が維持されるという現況に対して、「メキシコにはもう一度革命が必要」と「マフィア国家」からの再生に立ち上がる動きを紹介している。
                                〔桜井 敏浩〕

 (岩波書店 2017年7月 246頁 1,900円+税 ISBN978-4-00-02482-2)

 〔『ラテンアメリカ時報』2017年秋号(No.1420)より〕