『ラテンアメリカ五〇〇年 -歴史のトルソー』 清水 透 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『ラテンアメリカ五〇〇年 -歴史のトルソー』 清水 透

 メキシコ歴史を専門とする著者(慶應義塾大学名誉教授)が大学6校で行った講義を基に纏めた、植民地時代以降の500年のラテンアメリカの歴史、特に社会史のトルソー(太い流れ)をこれまで西欧中心の史観から民衆の視点で解明しようとした講義録。
 欧州人による発見=インディオ世界との出会いに始まり、彼らの一部の生贄などの風習を理由に「野蛮」とねつ造され、植民地体制の秩序形成に組み込まれ、身体・財産のみならずカトリック教会によって精神的にも征服された。しかし、後にアフリカから導入された黒人奴隷も含め、それにもめげず征服した支配者に抵抗を試み、叛乱が潰された後は表面的には現実と改宗を受け入れ服従するが、僅かに残された自分たちなりの自己再生の道を確保するという「共生」という名の抵抗に変わる。19世紀にボリバルはじめ各地で起きたクリオージョ(米大陸生まれの植民者の後裔)による独立運動は、白人優位のままの植民地制の維持を目指したものだったが、その後世界的な近代化と資本主義化の流れの中でラテンアメリカも徐々に変容し、カウディジョ(軍人首領)による独裁の乱立、権力争奪を経て、軍人主導政治、米国による覇権の拡大とその裏庭化が進むが、一方で19世紀末から自由と民主主義、社会主義思想が西欧から持ち込まれた。20世紀に入り、メキシコ革命は新たな国家構造の構築を目指したが植民地の遺制打破までは至らず、1959年ではキューバ革命が成就するが東西冷戦の影響を受け、各地で誕生した社会主義政権は米国の支援を受けた軍部により転覆させられた。1980年代にはラテンアメリカ民主化への逆風も収束し各国で民政移管が行われ、1823年来の米欧間での相互不干渉をうたってラテンアメリカを勢力圏としてきた米国のモンロー主義も終焉した。
 ラテンアメリカの歴史は「発見」を起点とした、欧米の概念による「文明」の「他者」支配の実験の場であった。その成果がその後欧米諸国によって生かされてきたことから、ラテンアメリカ500年の歴史を学ぶ意義は大いにあると結んでいる。本書は、立教大学ラテンアメリカ研究所から刊行された叢書の同名書(2015年-非売品)の構成を一部改め加筆修正したもの。
                                 〔桜井 敏浩〕

(岩波書店(岩波現代文庫) 2017年12月 323頁 1,200円+税 ISBN978-4-00-600372-2 )