『家宝』  ズウミーラ・ヒベイロ・タヴァーリス | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『家宝』  ズウミーラ・ヒベイロ・タヴァーリス

東京外国語大学大学院でブラジル文学・文化を講じる訳者が編む「ブラジル現代文学コレクション」の3冊目。この後も4点以上の現代ブラジル文学の紹介が予定されている。著者は1930年サンパウロ生まれ、西欧の選れた近代美術の収蔵で知られているサンパウロ美術館に付設の映画学校で学んだ映画研究家で女流詩人・作家。

マリナ・ブラウリア・ムニョスが古参のメイドのマリア・プレッタ、甥で秘書のジュリアォンとの老境の静かな生活の描写から始まる。今は亡き夫のムショス判事が婚約の際に贈ってくれた見事な年代物のルビーの指輪、高価な宝石ゆえに普段の使用のためにはそのレプリカもあると言われながら、両者を揃って見せられることがない内に、レプリカを持って出かけた新婚旅行先のスイスでこの指輪が紛失し、帰国後銀行の金庫に保管されていた指輪を持って再度レプリカを作りに宝飾店を訪れたところ、本物ではないと告げられる。はたしてどこで本物とレプリカを取り間違えたのか?  はたまたそもそも初めからそれら二つがあったのか? という謎を中心に、マリナの少女時代から「女」となり老女になった今までの自身の記憶と周囲の人たちとの会話が、それぞれの登場人物が複数の顔をもち錯綜する。

〔桜井 敏浩〕

(武田千香訳 水声社 2017年12月 141頁 1,800円+税 ISBN978-4-8010-0293-7 )