『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』 G. ガルシア・マルケス | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』 G. ガルシア・マルケス

ガルシア・マルケスの講演集で“Obras de García Márques |1944-2007”と付記されているように、17歳の時に高校の卒業する上級生に対して行った生まれて初めてのスピーチ(そこでの言がタイトルになっている)から、80歳になって2007年にスペイン国王夫妻の前で読み上げたものまで、22編のスピーチ原稿を編纂したもの。講演嫌いで決して雄弁家とは言い難い作家が行ったスピーチ集の背後にある彼の生い立ちからの生活の変遷の中で発表した数々の作品と、その間のラテンアメリカの政治背景を、訳者あとがきが詳しく解説している。

すなわち貧困の中で全寮制の中高等学校から国立ボゴタ大学法学部に進み、新聞に短編小説を寄稿するようになったが、地方新聞社勤務から欧州特派員生活、ベネズエラ雑誌社の招聘、キューバ革命直後のハバナを訪れ、次いでニューヨークへ新聞社支局の開設行くが社内のごたごたで辞め、メキシコに移ってメキシコの作家カルロス・フエンテスやチリの作家ホセ・ドノソの知遇を受け、そしてスペインの出版代理人とのすべての出版版権契約が成立して創作活動はいい方向に向かいはじめ、『百年の孤独』の大成功に繋がり、1982年のノーベル文学賞受賞に至る。

これらの時代、ラテンアメリカは大きな政治・社会変動があった。例えば保守・自由党の対立のなかでガイタン自由党大統領候補の暗殺をきっかけに拡大した暴力の応酬がやがて内戦へ進展した母国コロンビア、キューバ革命の成立(マルケスはその後一貫して親キューバ・親カストロを貫いている)、チリの軍クーデタによるアジェンデ左翼政権の崩壊、パマナ大統領のトリホス将軍による米国からのパナマ運河の返還実現とその死などについても言及しており、マルケスのそれぞれの作品と本書に収録されたスピーチが生まれた背景を理解することを助けてくれる。

〔桜井 敏浩〕

(木村榮一訳 新潮社 2014年4月 205頁 2,000円+税)

〔G.マルケス自身の誤述かもしれないが、同書の「ラテンアメリカの孤独」のスピーチ訳で、P.32の7行目に「アタウアルパ(1500~33)の身代金を払うために、一頭当たり百ポンドの金塊を載せた一万一千頭のラバが…」とあるのは「リャマ」の誤記。当時まだスペイン征服者が馬をともなって入ってきたばかりで、ロバとの交配種であるラバを先住民が使っていた筈はない。一方アンデス地帯では、ラクダ科のリャマ(Llama)は荷運び等の使役に使われてきた。〕