本清 耕造(在メキシコ大使)
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日墨関係の現状と今後の展望 ―日墨米新政権下での可能性と課題 本清 耕造(在メキシコ大使)
駐メキシコ特命全権大使として昨年(2024 年)11月末に着任した。メキシコでの勤務は32 年前、外交官として初めての大使館勤務を経験して以来である。その間、中南米第二課(現中米カリブ課)首席事務官、中米カリブ課長を含むポストにはいたが、それ以外の外務本省での長年の勤務も経て、日・メキシコ関係に再び携われることを大変光栄に思うと同時に、求められる役割の大きさに身が引き締まる思いだ。
日本とメキシコの関係は近年飛躍的に緊密化しており、私が以前勤務していた頃とは比較にならない程より幅広く、深いものとなっている。昨年10 月1日という奇しくも同じ日に日本とメキシコで新政権が誕生し、本年(2025 年)1 月には米国でも政権が変わるというこの節目に、新しく着任した駐メキシコ日本国大使として、以下日・メキシコ関係の現状と今後の展望について述べたい。
国際場裏におけるパートナー
日本とメキシコは価値や原則を共有する戦略的グローバル・パートナーである。ロシアによるウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす暴挙に未だ終わりの気配がなく、中東情勢を含め世界中で対立や分断が深まる今、国際社会の諸課題に取り組むべく、価値や原則を共有する国と連携を深める重要性は高まっている。メキシコは、太平洋を挟む隣国として、「自由で開かれたインド太平洋」を維持・発展させるべく協力できるパートナーである。また、周知の通り、メキシコは世界で初めて非核兵器地帯を定めたトラテロルコ条約を推進した国であり、私が外務本省で担当し、前任地のジュネーブで専門としてきた軍縮・不拡散や、人道、災害を含む気候変動等、より多様化・複雑化する地球規模課題に対応するべく、両国は国連、G20 やAPEC(アジア太平洋経済協力)等、様々な国際場裏の場において協力してきた。
一方で、前ロペス・オブラドール政権下では、上記のような政治的な協力関係は停滞気味であったと言わざるを得ない。同前大統領は、外交をあくまで内政の延長として捉えて重視せず、限られた外交活動の関心は北米やラテンアメリカとの関係に終始していた。その表れとして、同前大統領は、2023 年にサンフランシスコで開催されたAPEC 首脳会議を除き、在任中の6 年間に一度もG20 などの多国間サミットに対面では参加しなかった。また米国、カナダ及び中南米との間を除けば、首脳レベルの往来は激減した。日・メキシコ間の首脳会談も、遂に一度も実現することができなかったのは残念である。
これに対しシェインバウム政権の誕生は、戦略的グローバル・パートナーとしての両国間の関係性が、本来あるべき軌道へと戻るきっかけになると期待される。前大統領が一度も参加しなかったG20 サミットに、シェインバウム大統領は就任後わずか1 か月強で出席し、メキシコの国際舞台への復帰を印象付けた。また同大統領は、学者としてのバックグラウンドを持つ気候変動分野においても、再生エネルギー活用の重要性を強調するなど、高い関心を示している。シェインバウム政権下においても、内政重視という原則自体は変わっていないことから、外交へのコミットメントは一定の限界があろう。昨年開催されたCOP29 への出席も見送っており、現在のところ変化の程度は限定的と言わざるを得ないが、再び世界に目を向け始めたメキシコとの間でハイレベルの対話を実現すべく限られた機会を逃さず追求し、両国の戦略的グローバル・パートナーとしての協力を一層深化させていく所存である。
経済関係
近年の日・メキシコ関係を語る上で、経済関係の深化は欠かせない。今年発効20 周年を迎えた日・メキシコEPA(経済連携協定)や、2018 年に発効したCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的