中井 一浩(在ホンジュラス大使)
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ホンジュラス・中南米ビジネス推進に向けた考察 ―マイアミから域内に移って考えたこと 中井 一浩(在ホンジュラス大使)
はじめに ―マイアミでの経験と米国新政権への期待
私は本年(2025年)1月20日に駐ホンジュラス大使として着任した。前職はマイアミ総領事であり、ラテンアメリカ(中南米)の玄関口、「首都」とも称されるマイアミから、ホンジュラスを含めた中南米地域情勢をフォローしていた。この経験を生かして日本とホンジュラスの関係向上に貢献していきたい。
マイアミでは米国政府の対中南米外交をフォローすることも重要な課題であった。本年1月の米国トランプ第二次政権発足後、カナダ・メキシコへの追加関税付加、パナマ運河返還問題、メキシコ湾呼称変更問題、不法滞在者の強制送還問題などが中南米諸国を震撼させている。しかし、同時にトランプ新政権は、米国が中南米地域に包括的、戦略的に関与するチャンスになるかもしれない。初のヒスパニック系国務長官として就任したマルコ・ルビオ国務長官は、フロリダ州選出の上院議員であり、私はマイアミで同人支持者を交えた懇談の機会に参加していた。同人はその都度、米国政府が中南米地域を自らの裏庭と等閑視し、クリントン政権以来同地域への中長期的政策を持たなかったこと、それ故米国のプレゼンスが域内でジリ貧となり、中国の影響力が加速度的に拡大していることを嘆き、強く批判していた。同長官は、着任早々に西半球外交を再活性化することを表明し、中米諸国を歴訪している。中南米を知悉し、その重要性を理解する同長官の誕生によって、米国の具体的で建設的な関与、中国への効果的対峙が進むことが期待される。
ホンジュラスとのビジネス拡大を考える
―その経済俯瞰とビジネス上の大きな課題
さて、日本とホンジュラスであるが、本年外交関係樹立90周年を迎える。私は本稿の執筆時点で着任2か月に満たないが、両国が地理的隔絶を相克し、非常に良い関係にあって、ホンジュラス国民が挙げて親日的であること、そして、両国の関係は更に拡大する大きな余地があることをつとに感じている。両国関係を拡大するに当たって、特に貿易・投資面での潜在力が高いと考える。現在ホンジュラスでは安藤ハザマなどの本邦企業が活発に活動しているが、今後のビジネスを更に拡大する方途を考察してみたい。
ホンジュラス経済全体を俯瞰すれば、ビジネス拡大には腰を据えた取り組みが必要であることが分かる。ホンジュラス経済は、コーヒー、アブラヤシ、バナナ、エビ、カカオなどの一次産品輸出に依存する典型的な途上国経済である。貿易収支は赤字であり、その赤字を埋めるかのように、海外移民による郷里送金がGDPの約3割を占めるなど、中南米の中でも最貧国としての特徴を示している。その治安状況はやや改善を見せつつあるも引き続き深刻である。ハリケーン等自然災害に脆弱でもある。
ホンジュラス政府の経済政策・投資誘致政策が確たる方向性を欠くことも問題である。ホンジュラスでは20世紀初頭以来、国民党、自由党が交代して政権を担ってきたが、治安改善・経済発展が行き詰まる中、2022年1月、新たな政党であるリブレ党の左派カストロ政権が誕生した。リベラルな自由党を母体とする同党には進歩的な傾向が強く、進出した海外企業に税・行政面等で相当に自由な活動を認める「雇用経済開発特区」(ZEDE)を廃止し、「国際投資紛争解決センター」(ICSID)から脱退する等、ビジネス振興に逆行することを行った。その後海外投資呼び込み、貿易拡大に積極的に取り組んではいるが、国民の支持拡大のためか主要企業への課税拡大を図る等、その経済政策の方向性が見えてこない。
私は幸いなことにカストロ大統領と信任状捧呈前から接触でき、同大統領や側近と頻繁に日・ホンジュラス関係拡大を議論しつつ、その経済政策の方向性を照会しているが、同政権は本年の大統領選に向けて早期に政策の成果を顕示することに没頭しており、確たる感触がつかめない。
なお、カストロ政権は、2023年3月に80年以上