【季刊誌サンプル】エルサルバドル 世界一安全な国へ 星野 芳隆(在エルサルバドル大使) | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】エルサルバドル 世界一安全な国へ 星野 芳隆(在エルサルバドル大使)


【季刊誌サンプル】エルサルバドル 世界一安全な国へ

星野 芳隆(在エルサルバドル大使)

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2025年春号(No.1450)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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エルサルバドル 世界一安全な国へ 星野 芳隆(在エルサルバドル大使)

劇的な治安改善
1.9。この数字を語るとき、ブケレ大統領の表情は自信と誇りに満ちる。わずか10年前の2015年に殺人件数が人口10万人当たり105人という、戦争や紛争状態にある国・地域を除き、世界で最も危険な国といわれたエルサルバドルが、今やカナダも抜いて西半球で最も安全な国となり、2024年の数字は1.9人を達成した。ブケレ大統領は年末のメッセージで「我が国は、平和、信頼、楽観主義において世界の模範である」と記したが、これもあながち誇張とは聞こえない。次は西半球を越えて、世界一安全な国を目指すとしているが、さすがにそれには時間がかかろう(日本は0.7人)。

この治安の劇的改善こそが、近年のエルサルバドルを語る上での最大の特徴である。マラスと呼ばれるギャング集団が跋扈していた頃は、住民が支払う「みかじめ料」はGDPの3%に相当していたとの数字もあり、政府の税収よりも多かったとの見方もある。それが今や、大統領自身が「国内に危険なところは1ミリもない。何かあったら自分にいってくれ、すぐに対処する」と誇るまでになった。実際に、コロナ禍前と比較し、外国人観光客も激増している。2019年に177万人であったのが、2024年には319万人と80%の伸びであり、観光収入はGDPの約10%と経済の柱の一つとなるまでになった。この中の少なくない数が、内戦当時に米国に逃れたディアスポラであり、治安回復により訪れることができるようになった祖国(かつてはギャングに支配されていた故郷の町)への訪問を含む。

この治安回復の魔法の杖は、憲法上の権利の一部制限という劇薬である。2022年3月に導入された、司法当局による逮捕令状なしの拘束、無期限の起訴前拘禁という「例外措置」はすでに議会で40回近い延長を数える。この例外措置体制下で拘束された人数は8.5万人であり、実に人口の1.7%に当たる人数が収監ということとなり、世界一の収監率を「誇る」。デュープロセス的には疑念も残る憲法の一部停止という「強権」による治安回復、軍・警察を総動員しての治安維持に対しては、人権団体をはじめ批判もある。大統領は、ギャングの人権よりも国民の人権こそが重要だと、そうした批判に正面から反論する。安心な生活を渇望していた国民の大多数も、この大統領の立場を支持している。大統領支持率85%という数字は、決して空虚な数字ではない。

一人勝ちのブケレ大統領
2019年に首都のサンサルバドル市長から大統領に当選し、現在2期目のブケレ大統領。支持率85%の同大統領は、ラテンアメリカの首脳の中で最も高い支持率を誇るのみでなく、他のラテンアメリカ諸国の国民の間での人気も高い。特に、治安悪化に苦しむ国においては、「うちの国にもブケレが欲しい」と