高橋 貞雄(JICA エルサルバドル派遣専門家)
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産業クラスター化と人材育成の重要性 ―エルサルバドルの経験を中心に 高橋 貞雄(JICA エルサルバドル派遣専門家)
はじめに
ラテンアメリカ、特に中米地域の農業は、豊富な自然資源と恵まれた気候条件を背景に、長年にわたり国家経済と地域社会の基盤を支えてきた。しかし、都市化の進展、グローバル市場での競争激化、農村部からの人口流出、さらには農業従事者の高齢化といった複合的要因により、伝統的農業の重要性は低下している。エルサルバドルにおいても、2023年のGDPに占める農業の割合はわずか4.6%であり、食料自給率が43%と低水準であることから、産業構造の転換が急務である(FAO 2022; World Bank 2023)。
一方、エルサルバドルは歴史的に輸出向け一次産品の生産を主軸として発展してきた。植民地時代から19世紀にかけてはインディゴ(Indigofera suffruticosa)が主要輸出品であったが、20世紀にはコーヒー(Coffea arabica)が国家財政を支えた。しかし、国際市場の変動や国内農地改革の影響により、バルサム(Myroxylon balsamum)、綿花(Gossypium hirsutum)、サトウキビ(Saccharum officinarum)など従来の生産品は衰退している。
このような背景を踏まえ、エルサルバドルの農業を若年層にも魅力的な産業へ再生するには、単なる生産活動の維持ではなく、付加価値向上を目的としたバリューチェーン(以下、VC)の振興および産業クラスターの形成が不可欠である。さらに、その実現には、人材育成と起業家精神の醸成が強力な推進力として求められる。
本稿では、エルサルバドルを中心とした中米地域における農産業の現状と課題を整理し、産業クラスター化および人材育成の取り組みの意義と展望について論じる。特に、2021年8月より実施されている国際協力機構(JICA)の技術協力プロジェクト「工芸作物バリューチェーン振興プロジェクト」(Creando Valor Agregado para El Salvador: CREVAS、以下プロジェクトCREVAS)の事例を通じ、プラットフォームアプローチが市場創造および起業家支援をどのように促進し、地域産業の成長に寄与しているかを検討する。
中米における農産業の現状
中米地域は、その地理的特性と気候条件から、多種多様な農産物の生産が可能な地域である。しかし、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラなどでは、伝統的農業への依存度が高い一方で、近年の経済構造の変化に伴い、農業部門の生産性向上や競争力強化が課題となっている。たとえば、エルサルバドルにおけるGDP比率の推移が示すように、農業の経済的寄与は年々低下しており、食料自給率の低さは輸入依存の深刻さを物語っている(World Bank 2023)。
また、農村部では人口減少と高齢化が進み、若年層の農業離れが顕在化している。こうした現状は、地域の経済基盤の弱体化だけでなく、伝統的な知識や技術の継承の危機をもはらんでいる。国連食糧農業機関(FAO)の統計データ(FAOSTAT、2022年)や国際農業開発基金(IFAD)の報告(2021年)によれば、中米地域における農村部の労働力不足やインフラ整備の遅れが指摘されており、今後の農業政策の転換が急務であることが示されている。
産業開発の展望と課題
中米における農業産業の活性化、特に若者にとって魅力的なセクターにするためには、従来の生産重