ラテンアメリカ・カリブ研究所レポート ILAC2025-3 2025 年5月 「トランプ第二期政権の中南米政策」ホワイト和子
【要旨】
トランプ第一期政権を除く 1990 年初めからの米政権の中南米政策を見ると、中南米の政治・経済の安定、安全保障は米国にとって重要であり、共に繁栄することが重要であるという主張が根底にあった。
それは民主主義の深化、自由貿易拡大、麻薬撲滅、不法移民対策などという形で、米国の中南米への「エンゲージメント」を示してきた。トランプ第二期政権は、従来の米国の中南米政策と同様のテーマを掲げるが、米国第一主義を強く主張する内容はこれまでの政策とは大きく異なる。
そこには、当該国の事情を慮り、開発援助の手を差し伸べるという方策は見られず、「飴と鞭」ならぬ「鞭外交」という声もある。まず、自由貿易拡大とは真逆の関税政策、海外援助の凍結に伴う麻薬撲滅対策の停滞が挙げられる。
一方、ベネズエラ、キューバには相変わらず厳しい経済制裁を課している。トランプ大統領の公約でもある不法移民問題に関しては、強制送還を含む厳しい措置が講じられている。4 月中旬、米国からの強制送還者の受け入れに合意した、エルサルバドルのブケレ大統領の訪米が大きな話題となった。国境での不法移民対策、不法移民の強制送還、出生地主義の見直しは最高裁をも巻き込む事態に発展している。
トランプ政権の中南米政策の根底には、中国への牽制があるとも言われる。トランプ大統領はパナマ運河を米国が管理すると主張して世界を驚かせ、米国のファンド(BlackRock)は、中国(香港)企業から運河両岸の港湾施設の運営権を獲得する交渉を進めている。さらに、中南米諸国の中国との関係見直しは、トランプ政権との関税交渉のツールともなろう。
特に南米で経済的影響力を増大している中国に対して、アルゼンチンのミレイ大統領との盟友関係の構築は、米国の南米での基盤を増強する契機となりうるというトランプ政権の目算もあろう。アルゼンチン、南米の資源国にとって、最も懸念されるのは中国の経済成長の減速であり、ミレイ政権にとっては、米国寄りの姿勢がそのリスク回避の一助となるかもしれない。
ファイル名(File Name) | ILAC-2025_3.pdf |
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ファイル容量(File Capacity) | 1 MB |
バージョン(Version) | 1 |
作成日(Published) | 2025年5月20日 |
ダウンロード回数(Downloaded Numbers) | 62 回 |
カテゴリ(Category) | ラテンアメリカ・カリブ研究所レポート |