『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』  くさば よしみ | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』  くさば よしみ

2012年6月にリオデジャネイロで開かれた国連持続可能な開発会議(リオ+20)で、ウルグアイのムヒカ(josé Alberto Mujica Cordao)大統領(当時)が環境の悪化した地球の未来について演説を行い、物質的豊さを求めるという人類の欲求こそが環境悪化の本当の原因、消費社会ではなく幸福の意味を問い直そうと指摘したことは世界中の多くの人たちに感銘を与え、日本でも子ども向けの絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(汐文社 2014年3月)として出版され話題になっている。 http://latin-america.jp/archives/8374

本書は、同じ編者によるその絵本の続編として、任期を終えた前大統領を編者が訪ねてインタビューしたものを構成した児童書である。少年の頃には日系人の園芸農家の手伝いをし、強権的になってきた政府を武力で倒そうとして、軍政時代にはゲリラ活動により 4度も投獄され、獄中で理工学書を読みあさった生い立ちを述べている。

大統領になってイデオロギーにとらわれて現実を受け止められない政府にならぬよう努め、現実に生きている人の生活が良くなるように闘わねばならない、反対意見はパンとおなじくらい必要であり、民主主義は永遠に未完成で完璧にもならないが、異なる人の考えを尊重することが素晴らしいと、今の政治には哲学がなく、歴史に学んでいない、人間は集団生活をする生き物ゆえ、共有する理想を掲げ、多様性を尊重しなければならないなど、自身の政治哲学も語っている。

ただ、この本のように“世界一貧しい大統領”という美名で喧伝されているが、ムヒカ氏は質素であっても地主であり、夫婦共に国会議員であって一般的なウルグアイ人よりは収入が多く(歳費の多くは財団に寄付しているというが)、また1960年代の独裁政権下で、軍警や市民を多数殺害した元左翼テロリストのゲリラ「ツパマロス」出身の初の国会議員であった。ムヒカ政権は、麻薬の横行を減らすために世界で初めて大麻の栽培・購入を合法化したことで知られている。ムヒカ大統領の前任と後任は同じ左派の大統領であり、これら政権の施政も少なからぬ部分はポピュリズム色があり、そのウルグアイ政治・経済そして社会面での是非は別途検証がなされるべきもので、いささかそのスピーチ等の言説とライフスタイルだけが美化されているきらいがある。

〔桜井 敏浩〕

(田口実千代絵 汐文社 2015年10月   73頁 1,200円+税   ISBN978-4-8113-2248-3 )