『新興諸国の現金給付制度 -アイディア・言説の視点から』  宇佐見 耕一・牧野 久美子編 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『新興諸国の現金給付制度 -アイディア・言説の視点から』  宇佐見 耕一・牧野 久美子編

社会保障でカバーされていない階層に対して社会扶助の手法として新興国において現金給付政策を採っている国が少なからずある。本書は冒頭で「新興諸国の現金給付政策-分析の課題と視点」(宇佐見耕一・牧野久美子)で、なぜ現金給付に注目するかから始まり、現金給付の位置付けと種類、先行研究と本書の分析の視点を論じ、アジア、アフリカ、中東欧の事例とともに、ラテンアメリカでは「アルゼンチンにおける「普遍的子ども手当」制定とアイディアの政治」(宇佐見耕一)、「ブラジルの条件付現金給付政策-ボルサ・ファミリアへの集約における言説とアイディア」(近田亮平)を載せている。

アルゼンチンではクリスティーナ・キルチネル政権時の2009年にインフォーマルセクターに対象を拡大した子ども手当てが制定され、受給には子どもに就学や予防接種を受けさせる条件付給付が採用された。ブラジルではカルドーゾ政権からルーラ政権にかけてボルサ・ファミリアをはじめとした条件付現金支給が拡大され、被支給者数は世界最大規模となっているが、そもそもは大統領暫定措置という大統領権限で制定された、事後的に議会の承認を受けるもので、その後の拡大、ボルサ・ファミリアへの集約もいずれもこの大統領暫定措置の議会での追認によったものであった。

本書は副題のように、現金給付制度のアイディアとそれを表明する言説の分析に比重をおいているが、とかく新興諸国や最貧国においてこの政策形成が利益政治の一面をもつことから、関係アクターの認識を通してのアイディアと利益の関係については今後の課題だとしている。

〔桜井 敏浩〕

 

(アジア経済研究所 2015年3月 239頁 2,900円+税 ISBN-978-4-258-04618-8 )