『ラテンアメリカ文学入門 -ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで』 寺尾 隆吉 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『ラテンアメリカ文学入門 -ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで』 寺尾 隆吉

 マリオ・バルガス・ジョサの『水を得た魚』(水声社 2016年)、ホセ・ドノソ『別荘』(現代企画室 14年)、カルロス・フエンテス『澄みわたる大地』(現代企画室 12年)など訳書も多数出している、ラテンアメリカ文学研究者(現在はフェリス女学院大学教授)によるラテンアメリカ文学の概説書。本書はその最盛期ともいうべき1958~81年とその前後数十年の現代ラテンアメリカ文学を中心に、具体的な作品に即して19世紀前半の独立以来約100年にわたる流れを明解に解説しており、この1冊でラテンアメリカ文学の全体的な歴史の流れと主要作品の要点を知ることができる。
 19世紀初頭のまだラテンアメリカでは文学が低く見られていた時代から説き起こし、徐々にラテンアメリカ小説が欧州に進出して評価を受け始め、1958年にメキシコで出版された『澄みわたる大地』をきっかけに60~70年代に世界的にも旋風を巻き起こし、67年のガルシア・マルケスの『百年の孤独』大成功によって、ラテンアメリカ文学は世界の文学の最先端と評価されブームの絶頂期を迎えた。ブームの終息が顕著になり始めた70年代末からは、チリのイサベル・アジェンデの『精霊たちの家』のように、難解さを強めていた文学ではなく娯楽小説を求めていた読者に受け入れられた如く、読者層の移り変わりが新たなベストセラーを生む時代に移ってきた。しかし、出版社の増加と文学賞の乱立で作家デビューはたやすくなっても、その後も高い芸術性と商業性を維持するのは難しくなり、作品が量産されている中で質の高い小説を鑑識眼の高い読者・評論家が支えたブームの時代の再来は無理にしても、数年に一作というペースであれラテンアメリカ文学から読み応えのある小説が生みだされることに期待をかけない理由はないと結んでいる。
 日本ではラテンアメリカ文学はスペイン語圏のものを指すことが多く、ほとんどの場合ブラジル文学は対象に入っていないが、本書でもマシャードの代表的な作品3点とブラジル色は薄いコエーリョについて簡単に言及しているだけである。
                                〔桜井 敏浩〕
 (中央公論新社(中公新書) 2016年10月 226頁 780円+税 ISBN978-4-12-102404-6 )

 〔『ラテンアメリカ時報』2017年春号(No.1418)より〕