『多文化共生地域福祉への展望 -多文化共生コミュニティと日系ブラジル人』 朝倉 美江 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『多文化共生地域福祉への展望 -多文化共生コミュニティと日系ブラジル人』 朝倉 美江


 国境を越えた移動が増え、近年は多様な国籍、言語、文化をもった人たちが我々と同じコミュニティで生活を営んでいるが、定住化により多文化共生政策が課題となり、また中には生活に困窮し支援を要する人たちも出てきていることから、社会保障制度面の対応や雇用支援も含む「地域福祉」という観点を合わせ取り組むが必要が出てきた。本書は1980年代後半から日本に移動(還流)してきた日系ブラジル人に焦点を当てて、国境を越えて移動してきた人たちの生活を誰が、どのように支援することが出来るか? 入れ替わりも多い多様な人たちと生活を営むコミュニティのあり方を総合的に論じたもので、著者は社会福祉の現場でも働いた経験を有し、社会福祉学を専門とする金城大学教授。
 東日本大震災に遭遇した被災者と日系ブラジル人との絆の意味、「不安定定住」という生活問題の指摘から始め、グローバル化の中でのデカセギと日系ブラジル人とは何か、彼らのブラジル移住の歴史とその中で助け合うために生みだした文協・援協や国外労働者・同帰国者支援センター等の日系人組織の現状、デカセギで来た人たちの帰国(逆流)後の生活の実状、岐阜県の調査に基づくトランスナショナルな移住生活者の実態、日本と同じく移民受け入れ後進国であった韓国の移民政策とその推進に努めてきた民間団体の活動、日本の人口減少が進む中で労働力として期待されている移民問題と外国人労働者の雇用破壊との連動、地域社会の課題となってきた地域福祉と多文化共生におけるグローバルなコミュニティの位置付け、多文化共生地域福祉の実践事例と構築のため自発的に行う「民間性」、多様な国々からの人たちを受け容れる「多様性」、移動することを前提とし多文化生活支援システムをもつコミュニティにする「流動性」、移民を労働者としてしか捉えない契約労働者の人権を尊重する「グローバルなコミュニティ」の4つの視点を提起し、最後に多文化共生地域福祉への挑戦として、地域での生活を支える雇用の創出と地域づくりについて論じている。在日日系ブラジル人をめぐる課題について、歴史と背景、実際の生活状況を紹介し、移民政策の国際比較とあるべき姿を論じ、日本人すべてが考えるべき対応の提示に至るまでを網羅した労作である。
                               〔桜井 敏浩〕

(高菅出版 2017年9月  263頁 2,700円+税 ISBN 978-4-901793-76-6 )