ニッケイ新聞編集局報道部『海を渡ったサムライたち —邦字紙記者が見たブラジル日系社会』 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

ニッケイ新聞編集局報道部『海を渡ったサムライたち —邦字紙記者が見たブラジル日系社会』


1908年に始まった日本人のブラジル移民によって、現在日系人は約150万人にまでなっているが、この100年は日系人にとっても、日系社会にとっても数々のドラマがあった。初期の開拓移住地での苦闘の記憶、日系社会が最も大きな苦境に陥った第2次大戦前後の敵性国民としての厳しい制約、日本の情報が正確に入りにくい中で起きた同胞間での勝ち組負け組抗争、彼我の経済・生活条件が逆転して生じた“出稼ぎ”現象で味わった日本での希望と失望などを、戦後いち早くサンパウロで発行され始めた邦字紙の流れを汲む新聞ならではの豊富な取材、インタビューにより、5年間にわたって連載した記事をまとめたのが本書である。

日系人の体験だけではなく、日本のサッカーのレベルアップに貢献してきた5人の名選手、平成の世になって、ブラジルで夢を追うべく渡った自由渡航の若者たち、マンガ・アニメやカラオケなど越境する日本文化なども紹介されていて、まさにブラジルは「日本人が世界中の異なる民族が集う社会への適応・順応するための壮大な歴史的実験の場」(同紙深田正雪編集長の序文)であり、「2つの国の間で日本人が果たしてきた役割の重要性、両国民の絆の深さを感じて」欲しいというメッセージを実感させる興味深いエピソード集となっている。[桜井 敏浩]

(幻冬舎ルネッサンス192頁 2006年6月1800円+税)