『太鼓歌に耳をかせ —カリブの港町の「黒人」文化活動とベネズエラ民主政治』 石橋 純 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『太鼓歌に耳をかせ —カリブの港町の「黒人」文化活動とベネズエラ民主政治』 石橋 純


カリブ海に面するベネズェラ随一の港町プエルト・カベージョの旧市街に、太鼓などの楽器、歌、踊りを盛り込んだ祭りが盛んに行われていた。1960、70年代の都市化の波に飲み込まれ、この祭りは衰退していたが、70年代末に太鼓歌の名手ビジャヌエバをリーダーに民俗文化救済会が組織され、太鼓歌の宴(tambor)という黒人文化の復権と伝統行事の再興に立ち上がった。

著者はビジャヌエバはじめこの町の人たちと長く、深く関わり、具体的な活動の動き、それにまつわる人間ドラマと、現代のベネズェラの社会、政治の変化の中での位置づけの検証を交互に読者に提供することによって、ラテンアメリカ文化研究、文化人類学という著者の専攻分野に無縁の読者にも、大いに興味をおこさせる工夫がなされている。

同じ著者に、『熱帯の祭りと宴 —カリブ海域音楽紀行』(柘植書房新社 284頁 2002年10月 2300円+税)という、キューバ、トリニダード、ハイチ、ドミニカ、コロンビア、ベネズエラについて、単なる音楽評論に留まらない祭りと宴の中心としての音楽文化を生き生きと描いた著作があり、その中に本書の舞台となったプエルト・カベージョの「ハンモクックの埋葬」も取り上げられている。

〔桜井 敏浩〕

(松籟社   2006年1月 574頁 2,800円+税)