『黒い羊 他』 アウグスト・モンテロック 服部 綾乃・石川隆介訳 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『黒い羊 他』 アウグスト・モンテロック  服部 綾乃・石川隆介訳


ホンジュラス生まれのグアテマラ人にして政治亡命しメキシコで長く活動している作家の作品の、初めての完全な邦訳。日本では、これまであったラテンアメリカ文学ブームの際にも紹介されておらず、ほとんど知られていないこの作家は、小学校中退後、仕事以外の時間のほとんどを読書に費やし独学に励んで大成した。本書には、人間のさまざまな面を動物に託して描いた寓話40編を収録している。

豊富な西洋古典−ギリシャ神話、聖書、イソップやラ・フォンテーヌの寓話についての知識に裏付けられた各編は、どれも分かりやすい文章で簡潔で短い。しかし、一読すると平易な話しであっても、文章の裏に読者の常識を覆すような作家のメッセージが幾重にも隠されていて、繰り返し読むほどに、この作家の人間の本性への厳しい風刺に気がつく。「作品の裏にひそむまことの知識、凶器のような美しいユーモア。なんと危険に満ちた作品であろうか。」(ガルシア・マルケスの本書に寄せた言葉)というこの作家の世界に、新鮮な魅力を感じる読者も少なくないだろう。

(書肆山田2006年7月156頁 2000円+税。訳者の一人服部 綾乃さんは、元『ラテン・アメリカ時報』編集部員)