『ブラジルの歴史』 ボリス・ファウスト 鈴木 茂 訳 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ブラジルの歴史』 ボリス・ファウスト 鈴木 茂 訳


サンパウロ大学で長く文明史、政治史を講じたブラジルの代表的歴史家によるブラジル通史。ポルトガル領アメリカ植民地時代から独立以降の帝政時代、第一共和国とヴァルガス政権、第二次世界大戦後の民主主義の実験、1964 年から21 年間続いた軍事政権を経て民主化に移行し、カルドーゾ政権を経てルーラ大統領当選に至るまでを詳述している(2005 年4 月に加筆)。

歴史叙述に力点を置いているが、ブラジル史の中心的なテーマ、例えば奴隷制の性格、独立後にブラジルが分裂しなかった事由、権威主義体制から民主主義への移行の特徴などの議論と著者の見解を組み合わせている。ブラジル史はともすれば、進化の過程であると捉える視点と、政治や社会に対する国家優位から起きる様々な問題が時代を通じて繰り返されてきたという「惰性」を強調する見方が多いが、著者はこれらとは反対に、時代を追って叙述することにより、同じ状況が続き現状追認がなされながら、政治、社会・経済は変化することを示そうとしている。

巻末には、部分的に異論があることを指摘した訳者解説、参考文献リスト、年表が付いている。同じ訳者・出版社による高校教科書訳『ブラジルの歴史』(2003 年) という良書が出ているが、より深くブラジル史を知りたいという読者には本書とあわせ一読を薦める。

(明石書店 544頁 2008年3月 5800円+税)

『ラテンアメリカ時報』2008年夏号(No.1383)より