『比較政治—中南米』 恒川 恵市 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『比較政治—中南米』 恒川 恵市


現代の中南米において民主主義手法によって誕生した多くの“ 左派” 政権の政策は多様である。経済不況・社会不安が長期にわたって続いていて、政治的な妥協と安定に不利な状況であるにもかかわらず、民主主義体制は持続し、従来の権威主義に逆戻りは起きていない。本書はラテンアメリカ政治の第一人者である著者(政策研究大学院大学教授)が、中南米の政治を比較政治学、政治体制論によって20 カ国を全体として比較し、また政治変動という点で典型的なパターンを示している5 カ国を事例に取り上げ解説したものである。

まず、中南米の経済、社会、政治状況の現状を概観して、本書の焦点を明らかにし、比較政治学の中での中南米の軍事政権型、個人独裁型の権威主義体制論、民主化論、ポピュリズム体制の起源、展開、挫折、ポピュリズムという“ ガス抜き” を持たなかった小国での内戦と革命、中南米での民主化の進展などを概観している。その後アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ペルー、ニカラグアについて、それぞれ異なる政治的背景、推移を述べ、最後に現代中南米政治で最も目立った現象である、民主主義の持続、先住民の政治的復権、“ 左派” の復活を考察する。比較政治学の精緻な理論を知ろうという放送大学の教材だが、一般読者にも理解しやすい説明になっている。

(日放送大学教育振興会 201頁 2008年3月 2200円+税)

『ラテンアメリカ時報』2008年夏号(No.1383)より