『世界の測量 —ガウスとフンボルトの物語』 ダニエル・ケールマン - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『世界の測量 —ガウスとフンボルトの物語』 ダニエル・ケールマン


南極から南米西岸に沿って北上する寒流にもその名を留めている博物・地理学者アレクサンダー・フォン・フンボルト(1769〜1859年)と、天才的な数学・天文・物理学者カール・フリードリヒ・ガウス(1777〜1855年)という、二人の19世紀前半の科学の世界で偉大な足跡を残したドイツ人を主人公にした伝記的小説。当時の最先端の科学のその最先端にあって、それぞれの分野で大きな業績を挙げ国際的にも名声を高めた二人の偉才の関わりと交流を、両者のそれぞれの生き方、処世を交互に時代順に描いている。

世界を理解したいという願望から新世界への旅を意図したフンボルトに、ゲーテが地球の内部は冷たいとする水成説を立証するために火山調査を勧める。気象・地理の測定、測量、調査の訓練の後スペインに赴き、実力者の大臣からスペイン領新世界での行動許可を得て、フランス人のエメ・ボンプランとともにカナリア諸島経由南米に渡り、オリノコ河を遡りアマゾン河と支流で結ばれていると断定、その後コロンビアからアンデス山脈沿いに南下、ペルーのリマまで赴き、帰途新興のアメリカ合衆国に寄って帰国した。途中エクアドルのチンボラソ火山の登頂に挑戦、頂上目前の18690フィート地点まで到達したが、これは当時のヨーロッパ人が地球上で到達した最も高い地点だった。これらの冒険旅行中も、天文観測、気象・温度や地磁気の測定、測量、動植物の観察と標本の採取を精力的に行い、また火山の火口に降り、地球の内部は熱いと水成説の誤りを立証したが、科学的探求心とさまざまな調査と測定、標本収集、記録の作成は超人的である。

二人の19世紀の巨人の波乱に富んだ生涯を綴っているが、彼らの業績を追った史実に忠実な伝記ではなく、地図による説明がないのは勿論、新世界・ヨーロッパでの移動の地理的なルートも把握し難い。訳者がいうところの哲学的知的冒険小説なので、フンボルトそしてガウスの特異な人となりを描いた文学として読む読者には非常に面白い小説といえるだろう。

(瀬川裕司訳三修社2008年5月334頁1900円+税)