『燃料か食料か —バイオエタノールの真実』 坂内 久・大江徹男編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『燃料か食料か —バイオエタノールの真実』 坂内 久・大江徹男編


世界的な地球温暖化傾向への警告として、エタノールなどのCO²をこれ以上増やさないエネルギーへの関心が高まっている。最近の原油価格の高騰が、これら再生可能エネルギーの採用を大きく後押ししている。

ブラジルは第一次石油危機の直後の1975年に国家プロアルコール計画を採用し、主にサトウキビを原料とするアルコール(エタノール)を燃料とする自動車の普及に力を注いできた。その後補助金による支援は無くなったものの、現在ガソリンにエタノールを25%程度混入しており、またいかなる割合でガソリンとエタノールを給油してもエンジンが自動的に対応するフレックス車の普及により、広くエタノールが使われている。広大な農耕可耕地をもつブラジルは、サトウキビによるエタノール生産では、トウモロコシによるエタノールを生産する米国に次いで世界2位だが、輸出余力という点では量的にもコスト的にも断然世界一である。

一方、米国のブッシュ政権は国内産業界の経済的利益から、先進国の中で唯一京都議定書の枠組みを拒否しているが、この数年はエタノール使用の推進を打ち出している。

本書は、ブラジル、米国、中国のそれぞれの国でのエタノール生産、EUでのバイオ燃料政策、東南アジアでのパーム油によるバイオ・ディーゼルの生産を紹介し、米国の環境政策とバイオ燃料をめぐる産業間の対立と協調、エタノールと米国のトウモロコシ生産、価格の変動、そしてセルロース系の非食料原料によるエタノール生産開発の現状と環境・食料への影響を、7人の研究者が分析しているが、まさしく「燃料か、食料か?」「エタノールの生産とその使用をめぐる世界の情勢はどうなっているか?」という今日大きな関心を集めているこの非化石燃料の実情を理解する上で、極めて適切な一冊である。

(日本経済評論社2008年7月292頁2600円+税)