『連帯経済の可能性 —ラテンアメリカにおける草の根の経験』 アルバート・O.ハーシュマン - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『連帯経済の可能性 —ラテンアメリカにおける草の根の経験』 アルバート・O.ハーシュマン 


著者はベルリンに生まれ、ナチス・ドイツ、スペイン、イタリアで反ファシズムと闘い、戦後は米国で大学教授を歴任して現在はプリンストン高等研究所名誉教授を務める異色の政治経済学者として知られているが、本書は1984年にドミニカ共和国、コロンビア、ペルー、チリ、アルゼンチン、ウルグアイでの米州財団の「草の根発展」プロジェクトを見てまわった時の理論的考察を含む旅行記である。都市や農漁村などの貧しい住民たちによって組織された組合、コミュニティ、運動、相互扶助組織などの胎動する連帯経済の現場を訪ね、様々な具体例を見ることによって社会の変化、発展過程の中での概念、考え方、新たな論点を提起している。

苦境を脱するための真摯な集団による運動を通じての実践的行為を通じた学習、社会エネルギー化、協同組合事業を評価し、自助を柱とする草の根のコミュニティで人々の生活向上と社会変革が広がっているという変化が重要だと説いている。連帯経済の直面する壁は、非現実的とか理想論にすぎないとの決めつけであるが、その胎動を察知し、様々な取り組みを正当に評価し後押しできる概念装置が必要であり、本書のラテンアメリカ6カ国での事例はそれがいかなるものかを示唆していて、四半世紀前の見聞録をいまあらためて刊行する意義が随所に感じられる。

(矢野修一・宮田剛志・武井泉訳法政大学出版局2008年12月204頁2200円+税)