『野蛮から秩序へ—インディアス問題とサラマンカ学派』 松森 奈津子 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『野蛮から秩序へ—インディアス問題とサラマンカ学派』 松森 奈津子


近代の国際社会を牽引してきたヨーロッパの政治秩序形成は、王権と教会の支配権をめぐる変容と国内統合のほかに、西欧諸国家による非ヨーロッパ地域、すなわち異教世界への侵出という側面をもつ。スペインでは1942 年のコロンブスにより「新たに発見された」新大陸の征服にともない、その地の先住民である異なる共同体に属する人々とのあるべき関係をめぐるさまざまな議論が起きた。このインディアス問題、すなわち非キリスト教徒の「野蛮な」人々をも含めた共同体のあり方を提起し、新たな政治秩序を模索する諸議論を牽引したのが、サラマンカ学派と総称される思想家たちだった。

本書は、近代政治秩序がどのように形作られ、そのプロセスの中でのインディアス問題の位置づけを行い、インディオの本性は理性的存在といえるか、スペイン支配の正当性、正しい布教法、分配制(レパルティミエント)/委託制(エンコミエンダ)や催告(レケリミエント)といった法制度の合法性や介入の正当性の前提になる、インディオに対する征服戦争の合法性を、サラマンカ学派の思想の展開を追いつつ考察し、これらの思想の問題点とともに、後の主権国家論に連なる近代政治思想への課題を探っている。国立マドリード大学( コンプルテンセ) で博士課程政治学を修め、国立サラマンカ大学で招聘教員を務めたこともあり、現在は静岡県立大学で政治・国際関係思想とスペイン史を講じる著者が、膨大な文献を読破しての地道な研究成果を体系的にまとめた労作である。

(名古屋大学出版会 2009年5月 390頁 5000円+税)

『ラテンアメリカ時報』2009/10年冬号(No.1389)より