長年スペイン、ラテンアメリカ文学を講じ、多くの訳書がある著者が、まず読まれるべき作品、作家を10編の小説で紹介したものである。
取り上げた10編は、ボルヘス(アルゼンチン)の『エル・アルフ』、カルペンティエル（キューバ）『失われた足跡』、アストゥリアス（グアテマラ）『大統領閣下』、コルタサル（アルゼンチン）『石蹴り』、ガルシア＝マルケス（コロンビア）『百年の孤独』、フェンテス（メキシコ）『我らが大地』、バルガス＝リョサ（ペルー）『緑の家』、ドノソ（チリ）『夜のみだらな鳥』、プイグ（アルゼンチン）『蜘蛛女のキス』、イザベル・アジェンデ（チリ）『精霊たちの家』であり、それぞれにその作家の他の作品や関連ある他作家の作品の紹介ともに、取り上げた小説の意義と優れた着眼点、作家の生い立ちとその時代環境との関わりを分かりやすく説明し、それらの背景にある歴史、神話、特異な現実、独裁制などラテンアメリカならではの問題についても解説している。
日本でも多くのラテンアメリカ文学の翻訳書が出回ってきたが、手頃な入門書というものはこれまでほとんどなかったので、コンパクトに整理された有用な参考書であるが、同時に各項の随所にラテンアメリカ文学の魅力を少しでも広く知らしめたいという著者の情熱を感じさせる。
（岩波書店（新書）2011年2月186頁700円＋税）
