『顔のない軍隊』 エベリオ・ロセーロ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『顔のない軍隊』  エベリオ・ロセーロ  


ジャーナリストでもあるコロンビアの作家による、得体の知れない武装組織に蹂躙される山間の村の人々を描いた小説。大土地所有制とそれによる搾取に反抗した農民武装自衛運動から始まった左翼ゲリラに対して、大地主層を支持基盤とする右派自衛団パラミリ、コカイン売買で巨利を貪る麻薬組織と政府軍が三つ巴、四つ巴になり、脅迫、殺人、破壊、誘拐を繰り返す暴力 Violencia が全土に蔓延する時代、それまで平和な小さな村に、どの勢力ともつかない武装集団が侵入して殺戮と誘拐、少年の強制徴兵を行い、殺害を免れた人々は安全地帯の当てもない難民となって逃げ出すまでの姿を、村のほとんどの住民が教え子だという元教師の老人の語りで描写する。

妻が行方不明になり、その帰りを待って村に踏みとどまる主人公の前で、牧歌的な生活を送っていた村人が次々に襲撃され、誘拐され、いとも簡単に少年兵士に殺されていくが、政府は見て見ぬふりをし、政府対反政府といった単純な武闘ではないがゆえに、“顔の見えない暴力組織”の横行が一向に収まらない絶望的な状況が続き、一般市民が巻き添えになって殺され、故郷を追われていく状況を、この年金生活者の老人の独白を通じて告発する。

(八重樫克彦・八重樫由貴子訳作品社2011年2月238頁2200円+税)