『貧困社会から生まれた“奇跡の指揮者” −グスターボ・ドゥダメルとベネズエラの挑戦』 山田 真一 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『貧困社会から生まれた“奇跡の指揮者” −グスターボ・ドゥダメルとベネズエラの挑戦』 山田 真一 


“El Sistema”(「国立財団ベネズエラ児童青少年オーケストラ・システム」は、音楽活動への参加により、青少年が非行に走るのを防ぐ活動であり、そこから幾多の指揮者、演奏家も輩出している。本書はこの全国音楽教育システム参加者の中から選抜された若い演奏家たちから構成されるシモン・ボリバル・ユース・オーケストラと、その指揮者として頭角を現し、米国のロサンジェルス・フィルファーモニック・オーケストラの音楽監督に26歳で就任し、それ以前にもスウェーデンで最も古いイエテボリ交響楽団、ドイツを代表するオーケストラであるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で指揮し、いまや世界の名だたるオーケストラからも引っ張りだこの天才指揮者グスターボ・ドゥダメルに焦点を当て、その誕生から彼の実力、世界の音楽界での活躍ぶり、レパートリーや発売されているCDに至るまでを解説することから始まっている。

ベネズエラには、ユース・オーケストラが複数あり、このエル・システマから世界に向けて巣立った演奏家も多くいて、その一端を紹介している。エル・システマは、貧困な家庭環境から子供たちが非行、犯罪の道に入るのを救う運動だが、だからといって貧しい子供たちばかりを集めているとか、犯罪前歴がある者たちが多いというのは誤解である。しかし、貧しい劣悪な環境の中で家庭内や地域での暴力の横行から子供たちを救い、能力の高い子供には奨学金のような給金が支払われ、努力次第ではプロの音楽家としての道が開けるという希望を与える効果は大きい。

最後にベネズエラならびにラテンアメリカのクラッシック音楽事情の解説を付している。エル・システマの創立、活動の状況と成果などについては、同じ著者による『エル・システマ —音楽で貧困を救う 南米ベネズエラの社会政策』(教育評論社 2008年http://www.latin-america.jp/modules/bluesbb/thread.php?thr=166&sty=1&num=l50#p181 )に詳しい(このシステマの創設期には、日本人ヴァイオリニストの才能教育法も大きく関わっている)ので、併読をお薦める。

(ヤマハミュージックメディア2011年4月159頁1800円+税)