『壊国の契約 – NAFTA 下メキシコの苦悩と抵抗』 エリザベス・フィッティング 里見 実訳 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『壊国の契約 – NAFTA 下メキシコの苦悩と抵抗』 エリザベス・フィッティング  里見 実訳


メキシコは米国、カナダと NAFTA を構成することを決断し、北米経済圏の一員として生きることを選択したが、その代償として日本でいえば米(コメ)にあたるメキシコの基本食糧であるトウモロコシ農業を新自由 主義経済の国際競争に晒すことになり、米国からどっと大規模栽培による安価なトウモロコシが流入し、小規模栽培の国産品を圧倒、あまつさえGM(遺伝子組み換え)品種が入って来ることになった。

本書はメキシコが発祥の地であり、単に主食であるという以上に文化とまでいえるトウモロコシ農業の実情 と地方農村の小農に降りかかってきた危機を序論「国産トウモロコシのためのたたかい」で述べた後、第1部「論争 NAFTA 締結後のトウモロコシの大量輸入と GM 論争」では、GM コーンについての専門家の議論だけでなく全国で広がった抵抗を、その背景であるメキシコの歴史と文化に深く根ざしたトウモロコシ農業の推 移とともに紹介している。第2部「暮らしの立て方 NAFTAがもたらした農業の危機と生活の激変」では、ト ウモロコシ発祥の地であるメキシコ市からほど近いフエ?ラ州テワカン地峡の一農村に密着してのフィールド調査から、地域社会とその内部対立を水利をめぐる組合と国家の抗争史、トウモロコシ農業環境の激変の姿と 農民的対応としての出稼ぎ・移住に至る生存戦略を詳しく紹介することによって、農民の農業と土地への関心の変化というアイデンティティの問題と、いまや農民が移民労働者かマキーラの労働者になっていくのでは? との問題提起を行っている。

新自由主義経済政策の下、グローバル化の渦のなかに、伝統農業が投げ込まれたメキシコの事例を詳述して いるが、この主食食糧の大量輸入化と GM の流入の問題から、日本の TPP参加表明に対する反証としたいとの問題意識で同社から出版されているシリーズの一冊。

(農山漁村文化協会(農文協)2012年8月282頁2600円十税)