『教育における国家原理と市場原理 −チリ現代教育政策史に関する研究』 斉藤 泰雄 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『教育における国家原理と市場原理 −チリ現代教育政策史に関する研究』 斉藤 泰雄


チリは1980年から世界に先駆けて新自由主義経済政策を導入し、それを教育政策にも導入し推進した。教育の地方分権化、国庫補助の教育バウチャーによる教育財政方式、教員の非公務員化、一部職業教育運営の民間委託や高等教育の規制緩和・民営化などが軍事政権により断行され、今日までその骨格は継続されている。本書はなぜこれほどラディカルな政策が採られたか、その歴史的背景は何か、誰が制度設計を行い、導入されたのか、10年間にわたる実施でどのような変貌を遂げたのか、新自由主義教育政策の明暗はどのように認識されているか、民政移行後の見直し論議と軌道修正策はどのようなものだったかを詳細に論じた労作。

文民政権復帰後もその制度が継承されていることからも、この新自由主義教育政策が肯定的な成果があると見られていることは確かだが、反面市場化・民営化の限界も浮かんできた。軌道修正を行い、市場メカニズムを存続しながら、それと国家による政策的介入をいかに調和させるかという意味でも、チリ教育改革のダイナミズムが注目されると、著者は指摘している。

著者は、現在は国立教育政策研究所の研究官の職にあり、これまでもラテンアメリカの教育改革を含む教育政策の研究書を出している。本書は1960年代半ばから21世紀初頭の約40年間のチリの教育政策とその変革の歴史、特に国家主義と市場主義の相克を分析したものである。

(東信堂2012年5月346頁3800円+税)