『テロ! ペルー派遣農業技術者殺害事件』 寺神戸 曠 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『テロ! ペルー派遣農業技術者殺害事件』 寺神戸 曠


1991年7月12日朝、ペルーでの「野菜生産技術センター計画」技術協力に赴いていた日本人農業技術者3人が、当時横行していた反政府テロリストグループ「センデーロ・ルミノーソ」のメンバーによって殺害された。本書は、このプロジェクトの初代リーダーを務めた国際協力機構(JICA)のOBが、自らの経験とこのプロジェクトが行われるに至った経緯(生産者と消費者を繋ぐ流通近代化が、仲買人等の抵抗で実現出来ず、野菜生産技術センター建設と技術協力になった)と日本・ペルー両国政府、政府機関の意図、そして当時のペルーの農業分野の実情から、本来はペルーの食糧事情と中小農家の農業経営の面からペルーにとって必要であったプロジェクトが、対外債務支払い拒否を看板にしたアラン・ガルシア政権のポピュリズム政治下で機能が麻痺し、経費も無いカウンターパートの所轄官庁によって邪魔者扱いされていたことを明らかにしている。

そしてフジモリ政権になり、テロ組織が政権と日本との関係を敵視するようになっているにもかかわらず、施設への特段の警戒態勢や日本人等関係者の現地活動の一時停止措置などを取ることもせず、事件が起きてしまったことの両国関係機関の責任体制の欠如を国会審議のやり取りにより紹介し、また事件後に殺された日本人専門家にも危機管理意識が甘かったとか、野菜生産促進が麻薬のコカ栽培にもかかわるテロ組織の襲撃対象になったという見当違いの分析を載せる日本のメディアの見方の浅薄さ、詳細な調査も明確なビジョンもないまま、事件後すべての分野の派遣専門家等を総引き揚げした日本政府・JICAの措置を厳しく指弾している。

〔桜井 敏浩〕

(東京図書出版発行・リフレ出版発売 2013年5月 144頁 1,000円+税)

〔『ラテンアメリカ時報』2013年秋号 No.1404 より〕