1953年生まれのチリの人気作家である著者が育ったサンチャゴに近い港湾都市バルパライソには、チリ共産党の古参党員でもある詩人でノーベル文学賞に輝くパブロ・ネルーダの3軒の持ち家の一つがあり、学生時代に街でその姿を見かけたという。
探偵のカジェタノを主人公にしたシリーズの6作目で、1970年の選挙で登場したアジェンデ社会主義政権が経済・社会の混乱から軍部がいつクーデタを起こすかが懸念されていた動乱の時に、カジェタノはアジェンデの盟友でもあったネルーダから癌が進行しているのでその治療のためにある医師を捜して欲しいと頼まれる。あやふやな情報を頼りにメキシコ、キューバ、東ドイツ、さらにチェ・ゲバラ終焉の地ボリビアへとカジェタノは調査に赴くが、その間に捜しているのは医師の夫人で一時期ネルーダと関係をもち、別れた後に生まれた娘が自分の子かを確かめたいためと目的が明かされ翻弄される。やがて実は医師の元夫人はサンチャゴに住んでいて、東ドイツに女優としている娘の存在に辿り着いたカジェタノの前に姿を現すが、その直後73年9月11日ついに軍と警察軍によるクーデタが勃発、カジェタノは一時軍に拘束されたが、ある勢力の指示で解放され駆けつけた病院でネルーダはすでに息を引き取っていた。
ネルーダの実際の経歴や奔放な女性関係、捜している夫人が東ドイツの諜報活動に関わり、ゲバラの死の時にボリビアにもいたなどのフィクションを、混沌としていた20世紀末のラテンアメリカでの政治情勢を背景に織り込み、最後に意外な人物の種明かしもあって飽きさせないミステリー小説である。
〔桜井 敏浩〕
(宮﨑真紀訳 早川書房(ハヤカワ・ミステリ) 2014年5月 377頁 1,700円+税)
〔『ラテンアメリカ時報』2014/15年冬号(No.1409)より〕