蔵相・首相を務め、かの二・二六事件で亡くなった高橋是清が、19世紀に技師や抗夫をひき連れてペルーに赴き、銀山開発を試みていたことは、ほとんど世に知られていないだろう。本書は、鉱山企業に長く勤務するだけでなく、ペルーの滞在経験も豊かな著者が、日本の最初期の中南米鉱山投資の一部始終を明らかにした労作である。
明治の実業家であった高橋是清一行は、1889年8月に高品位の銀鉱脈の知らせを受けると、すぐに海路ペルーに渡り、翌年アンデスの標高4000メートル超にあるカラワクラ鉱山で活動を開始する。なぜ19世紀末にこのような鉱山投資が試みられ、そして可能であったのか。高橋是清はじめ、当時の関係者はどのような思いを抱えていたのか。最終的にこのプロジェクトは不調に終わるが、そのような判断は正しかったのだろうか。こうした問いに対して著者は、当時の文書や写真、関係者の手記や書簡を丹念にひもといて明らかにしていく。
本書全体を通じて、鉱山投資の実情を理解するために著者の専門性が発揮されており、余人をもって代えがたい豊富かつ専門的な知見が提供されている。また、日本語とスペイン語の二言語併記で執筆されており、両国の読者にとって面白く読めるものであろう。
〔岡田 勇 名古屋大学准教授〕
(MUSEO ANDRES DEL CASTILLO 2014年10月 221頁
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〔『ラテンアメリカ時報』2015年春号(No.1410)より〕