1962年10月15日に米国政府が高度偵察機によりキューバにソヴィエト連邦が核ミサイルを配備しようとしていることを発見し、ケネディ大統領とフルシチョフ第一書記との間で核戦争一歩手前のぎりぎりの交渉の結果、フルシチョフがミサイル撤去に応じた25日までの13日間のキューバ ミサイル危機は、大統領の弟で当時司法長官だったロバート・ケネディの『13日間-キューバ危機回顧録』(中央公論新書)や映画『13デイズ』(2000公開)で知られている。本書は危険極まりないこの出来事を簡潔に叙述し解釈したカナダの国際政治学者の共著だが、キューバ危機はこの2週間にのみに焦点を当てるのではなく、歴史に深く根ざした諸々の力と世界観の衝突の産物であるという観点から、まず東西冷戦だけでなく、米国とキューバ関係をスペイン統治時代から米西戦争を経てカストロによるキューバ革命成立とその直ぐ後から始まった米国のキューバ封じ込め・経済制裁の動機になった革命政権の取った政策などの背景から説明している。
続いて危機の前奏である62年4月から10月までの出来事、両国指導者が互いに相手の心理を過小評価していたこと、62年10月にミサイル基地を発見してからケネディが強硬な対抗処置として海上封鎖に踏み切り、第3次世界大戦が起きてもおかしくない、最大の危機の6日間を世界は迎えたのだが、一方で両指導者は互いの誤解に気が付きはじめ瀬戸際で危機は回避される。本書は将来似たような危機が起こらぬよう、長期的視点でお互いが取った措置を検討し、歴史や世界政治がこの事件から何を学んだかを示唆している。
〔桜井 敏浩〕
(田所昌幸、林晟一訳 中央公論新社 2015年4月 230頁 2,300円+税 ISBN 978-4-12-004718-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』2015年夏号(No.1411)より〕