『高齢期の所得保障 – ブラジル・チリの法制度と日本』 島村 暁代 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『高齢期の所得保障 – ブラジル・チリの法制度と日本』 島村 暁代


 高齢期の社会保障の中核である公的年金制度は、それを単独で云々するのではなく、雇用・企業年金や公的扶助等と総合的に見なければならないが、それぞれの国の事情、歴史的経緯などから、実態はかなり異なっている。本書は比較法の観点から、国家主導で現役世代への賦課で高齢者年金を支えるブラジルと、民営化された制度の下で積み立てに拠る個人主義のチリを比較・考察したものだが、それによって日本の制度改革に資するものにしたいという意図もある。
 日本とははるかに現役時代の所得格差が大きい両国では、高齢期においてもその格差が引き継がれているが、これを無理に縮小させることの是非、年齢自体は要件としていないブラジルの状況から年齢が就労能力との関係でも年金制度設計上重要であること、積み立て方式をすでに30年間維持しているチリの経験など、わが国のこれからの制度を考えていく上で大いに参考になる問題提起を行っており、有益な示唆を得られる労作である。
                              〔桜井 敏浩〕

(東京大学出版会 2015年10月 頁 7,200円+税 ISBN978-4-1303-6147-7 )
 
〔『ラテンアメリカ時報』2015/16年冬号(No.1413)より〕