15世紀末のコロンブスのカリブ海西インド諸島到達によってスペインに持ち帰られた中南米原産のトウガラシは、そこから瞬く間に欧州、アフリカ、アジアなど世界各地に広まり、それぞれの土地で主食ではないにもかかわらず世界の食卓に多大な変化を及ぼした。紀元前7000年前後からアンデス山岳地帯やメキシコでもすでに栽培され利用されていた、アメリカ大陸でも最古の植物のひとつでほとんど唯一の香辛料だったのである。早くから野生種から栽培種となり、各地で多種多様な品種が生みだされ、欧州に伝播した後も各地で品種や料理等で利用が工夫され、特に南欧・東欧でさかんに使われた。一方、ポルトガル人もブラジル東岸への到達時にトウガラシに出会い、インドに直接持ち込みカレー料理に不可欠な香辛料となった。またアフリカから南北アメリカ大陸への奴隷輸送にともなってマニオク(キャッサバ)とともにアフリカへも持ち込まれたとも謂われる。インドをはじめ南アジアとインドネシア等の東南アジア、さらに中国-特にチベット、雲南、四川等の西南地方へと伝播して日本にはコロンブスが持ち帰ってからわずか半生記後には入ってきている。そこから1613年に編まれた朝鮮の文献によれば、朝鮮半島にもたらされたのであり、キムチに代表されるトウガラシを多用する食文化はわずか250年前からということになる。
原産地中・南米での生産、利用の実態から始まり、地球を東周りに欧州へ、アフリカ、アジアへ、そして最後に日本での歴史と使われ方まで、トウガラシの伝播をわかりやすく地域別にその歴史、魅力と役割を概説している。
〔桜井 敏浩〕
(中央公論新社(中公新書) 2016年2月 233頁 860円+税 ISBN978-4-12-102361-2)