紀元前300年頃から文化が萌芽し西暦300~900年に各地に都市国家が栄えたマヤ文明、キチュー族の天地万物創造から譜代王家を中心とした神話物語の訳。スペインによる征服後、キチュー族が書き綴った絵文書・伝承をローマ字にしたものをチチカステナンゴ(グアテマラ)のヒメーネス神父が書き写しスペイン語に訳した原書を、1941年にグアテマラの歴史学者にして政治家だったレシーノス博士が米国シカゴのニューベリー図書館で再発見し取り纏めたスペイン語新訳を、外交官としてメキシコに在勤から戻った林屋氏が訳出し、1961年に画家北川民次の挿絵を入れた限定初版、メキシコ画壇の巨匠ディエゴ・リベラの水彩画を入れた1971年の改訂文庫版が出された。その後、三島由紀夫が書評を、文化人類学者石田英一郎博士が序文を寄せた1977年の本書初版の第3版が本書である。
先スペイン期のマヤの歴史・文化・信仰と宇宙観を理解するために必読の最古の文献資料の優れた邦訳書であり、詳細な訳注は極めて有用であることは、初出から55年が経過したいまでもまったく変わらない。訳者はその後オクタビオ・パスとの共訳スペイン語『Sendas de Oku(奥の細道)』、スペイン語からの訳書としては、『コロンブス航海誌』、『コロンブス全航海の報告』、『ユカタン事物記』(いずれも岩波書店刊)などの訳出をされ、1999年スペインのサラマンカ大学の中に「日西文化センター」設立にも奔走し、駐スペイン大使を務めた文人外交官だが、2016年5月に96歳で逝去された。
〔桜井 敏浩〕
(中央公論新社(中公文庫) 1977年10月初版 2016年4月3版 363頁 1,000円+税 ISBN978-4-12-206251-1 )