1995 年、コロンビアの首都ボゴタのビリヤード場で法学の専任教員になったばかの私はリカルド・ラベルデと出会い付き合うようになった。小型機の元パイロットであり、20 年近く服役していたようで、米国人の妻エレーナ・フリッツが居るということぐらいしか素性は判らない。この年の12 月にマイアミを発ってカリに向かったアメリカン航空が、墜落し乗客の大部分が死亡する事故が起きている。翌年早々会った時、リカルドから持ってきたカセットテープを聞ける場所を尋ねられ、詩歌会館で聞けるように取り計らい、その後一緒に歩いていた街頭で彼は殺し屋に射殺され、私も重傷を負う。
2 年半後、リカルドの居た家を訪ねた私は管理人が保管していたカセットテープを聴くことを許された。それはエレーナも搭乗していた墜落機のボイスレコーダーで最後の瞬間の操縦室の声が聞こえた。その後まもなく管理人に残した私の電話番号の留守録に地方の山地に住む女性の伝言が入り、彼女、マヤ・フリッツを訪れることにした。マヤこそエレーナとリカルドの間に生まれた忘れ形見で、母が米国の平和部隊に参加してコロンビアに来て、そこでリカルドと知り合い愛し合うようになって結婚したのだが、実はリカルドは初めは大麻の飛行機輸送でそこそこ財を得、最後には1 回だけとの約束でコカイン密輸のため飛行した際に麻薬取締局に逮捕され服役していたことを知る。当初メキシコ経由だったのが、ニクソン大統領の麻薬戦争宣言でルートがコロンビアに移されたのだが、そのメキシコ、コロンビアに滞在経験をもつ一部の平和部隊員が仲介役として暗躍し、リカルドもその一人に利用されたのだと判る。
希望と善意に溢れた青年達により構成された平和部隊の一部が麻薬の供給という国
家に敵対する活動に関与していたという衝撃的な事実を交え、不慮の死を遂げた関係
者の人生を再構築して辿るという小説の面白さを堪能できる。
〔桜井 敏浩〕
(柳原孝敦訳 松籟社 2016 年1 月 314 頁 2,000 円+税 ISBN978-4-87984-344-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016年夏号(No.1415)より〕