1940年代後半から50年代、キューバを食いものにしたルチアーノ、ランスキーをはじめとするマフィア、そのマフィア・ビジネスに便宜を与えて莫大な上がりを懐にした独裁者バティスタ、それらの間の腐敗に反発して決起したカストロ率いる革命軍、上院議員時代にハバナでマフィアのもてなしを受け、後に米国大統領になってからはキューバをめぐってフルシチョフのソヴィエト連邦と対峙し、キューバに経済・外交的に制裁を始めたケネディ、マフィアと深い関係をもち、自らもマフィアに成りたかった歌手シナトラなども登場する。ニューヨークのアイルランド・マフィアの生態を描いた著書もある、ジャーナリストが2008年上梓したノンフィクション。
まずは「マフィアの中で最も賢い男」と言われた米国でギャンブル事業を拡大してきたランスキーがキューバに目を付け、バティスタ政府のギャンブル改革アドバイザーとして乗り込み、ライバルを排除してキューバ最大の賭博事業者になっていく過程を追い、彼らと組んで大きな権益を受けるなど腐敗が激しくなったバティスタ政権に対してカストロをリーダーとする反政府勢力が胎動してくる。モンカダ兵営襲撃で失敗し捕らえられたカストロだが、バティスタの人生最大のミスともいうべき恩赦によって2年後メキシコに亡命し武装グループを率いてキューバに上陸し山中でゲリラ戦に入るのだが、ハバナでは黒幕の策士ランスキーが着実に闇の世界の支配を盤石にし、ハバナマフィアの利権に割り込もうとしたライバルを排除していった。1957年、キューバ革命成就の2年前、シナトラ、グレアム・グリーン、ヘミングウェー等々の著名人がラテン音楽に魅了され、マフィアの経営するカジノやナイトクラブ、豪華ホテルに群がった。
カストロの革命軍が農山村部から次第に数を増するともに、都市部でも呼応する反政府勢力が活発に活動するようになって行く中ででも、前途を楽観したマフィアはバティスタと結託して新たなホテルやカジノへの投資を続け、1959年の大晦日の夜についにバティスタ一族と政府高官たちは国外逃亡、60年1月8日にカストロのハバナ入城をもってカジノは壊滅的打撃をうけ、ランスキー等マフィアのキューバでの権勢と利権は終焉を向かえることになるのだが、このキューバ現代史をあくまでマフィアの活動の側から見たノンフィクション。
〔桜井 敏浩〕
(T. J. イングリッシュ 伊藤 孝訳 さくら舎 2016年6月 365頁 1,800円+税 ISBN978-4-86581-054-7 )