著者は英国生まれのオーストラリアで活躍する作家、英文学を講じる大学教授。19世紀末に大英帝国の下での資本主義、不正の横行に失望した社会活動家のウィリアム(俗称ビリー)・レインがパラグアイに社会・共産主義社会の実現を目指す入植協同組合員400人を率いて首都アスンシオン東方150kmのアホス(現コロネル・オビエド)近くの原野に移住したが、内部対立により分裂して自身に従う者を引き連れ離脱し再出発を図るまでの、実際にあったオーストラリア人のパラグアイ入植を描いた歴史小説。
レインらの定めた厳しい禁酒、行動規範や持ち物の組合所有、組合憲章の履行等をめぐってイデオロギーが崩壊、次第にレインと対立する者が増え、一方土地保有等が確定するまではと組合員達への説明をせず、支持者以外は信用しないというレインの性格も相俟って入植協同組合は分裂、社会主義協同社会建設という夢は瓦解していく。
オーストラリアに残る手紙や報告書、電文、関係者の回想録等の資料と組合機関誌、当時の新聞から取り纏めた事実に基づく小説であるが、沢山の懇切な訳注にもかかわらず著者も訳者もスペイン語の表記やパラグアイ現地の事情に疎いのが判るのが残念である。
〔桜井 敏浩〕
(江澤即心訳 朝日新聞出版 2016年7月 140頁 1,300円+税 ISBN978-4-02-100251-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016/17年冬号(No.1417)より〕