今世紀初頭の資源価格の上昇によって石油・天然ガス・金属資源輸出国は大きな「資源レント(余剰価値)」を得た。その配分をめぐって国家と市民の間で利益配分や採掘地住民への環境問題にともなう係争が生じ、政治参加が盛んになった。新自由主義政策に反発する市民等の抗議運動、政治参加から誕生した左派政権は、ラテンアメリカにおいて奇しくも資源生産国であった。資源ブームの到来は国庫収入不足、債務問題、国営企業の非効率を忘れさせ、望ましい資源政策とその可能性についての考察が真剣になされなかったことが、その後の資源価格下落で明らかになってきた。
本書は、資源レントの利益配分、採掘をめぐる環境悪化等の不利益分配をめぐる抗争を、ペルー、ボリビアの鉱山紛争や先住民政治参加などの具体的事例を挙げて比較することで、特に国家・外資・採掘地住民という利害関係者間の中での安定的な資源管理のための合意形成が鍵であるが、特にそれらの中でも住民・市民団体の交渉力に着目してその政治参加と望ましい資源政策とは何か?を探究した優れた労作。著者は在ボリビア大使館専門調査員を経て、現在は名古屋大学大学院准教授。
〔桜井 敏浩〕
(名古屋大学出版会 2016年9月 386頁 6,800円+税 ISBN978-4-8158-0848-8 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016/17年冬号(No.1417)より〕