メキシコ、フィリピンで貧困層の生活改善、ストリートチルドレン問題に関わってきたNGOの代表でもあるジャーナリストが、メキシコの路上や施設で会った中米からの少年少女移民の背後に、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラに横行する若者ギャング=マラスの暴力から逃れてきた子供たちが少なくないことから、ホンジュラスを訪れて社会学者、刑務所に通うプロテスタント牧師、元はマラスのグループリーダーで今は牧師補佐となった青年、マラス構成員と同じ世代ながら軍警察官になり対峙する兵士、死の危険を乗り越えてマラスを抜け出した青年、中米からメキシコ経由で米国への決死の逃避行に出た少年、職業訓練や刑務所内の環境改善に奔走しているカトリック司教等々、多くの関係者にインタビューした記録。
貧困と親から見放され崩壊した家庭に居場所が無くなった少年たちが、たとえ恐怖心を与えることであっても世間から「リスペクト」され、マラス組織への帰属意識を持つことで「アイデンティティ」を感じるというのは「まがいもの」なのだが、ないよりはずっとましという切迫した社会環境がマラスのメンバーになることを選ばせていると指摘している。
〔桜井 敏浩〕
(集英社 2016年11月 331頁 1,800円+税 ISBN978-4-08-781621-1 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016/17年冬号(No.1417)より〕