1953年のフィデル・カストロが率いたモンカダ兵営襲撃に始まり、後に7月26日運動と呼ばれるキューバ革命運動は、その後シエラ・マエストラからのゲリラ戦を経て59年1月8日の革命軍のハバナ入城で勝利を得た。59年5月に制定された農業改革法は穏健なものであったが、外国人の土地所有を禁じたこともあり米国は強く反発し、60年の経済封じ込め政策の開始、61年のプラヤ・ヒロン(ピッグス湾)侵攻で対決が決定的になり、ソヴィエト連邦のキューバ支援、62年10月のミサイル危機へと突き進み、カストロのキューバ政府が共産主義を標榜するに至った。この間の革命の“変質”、ゲバラが世界革命思想ゆえに離れてボリビアでのゲリラ活動での「予告された死」、東西冷戦の激化で翻弄され、ソ連の経済圏に組み込まれたキューバが、米国の苛酷な経済制裁と91年12月のソ連の解体とによって経済・国民生活は壊滅的な打撃を受け、海外脱出者が激増した。
その後92年から今日に至るまで、政府は国民をいかに食べさせるかに腐心し、生産性の低かった国営農場の解体、経済自由化の前進、外資の積極誘致を試みてきたが、それは平等主義社会の解体、所得格差増大、不正の横行、さらにより良い生活を求める頭脳流失等の問題と裏腹になるものである。2010年代に入り、キューバ型社会主義の改革が種々試行されているが、他方政治改革は一党独裁体制の堅持から脱することは出来ていない。しかし、高齢のフィデルの第一線からの引退、ラウル・カストロ、ディアス・カネル第一副議長を中心とする後継体制の確立、14年の米国のオバマ政権よる関係改善、そして16年11月のフィデルの死によって、なお多くの問題を抱えながらもキューバは国内・対外関係で大きく変容しようとしている。半世紀のキューバ現代史をたどり、今日のキューバを理解するために、問題・課題も率直に挙げている。キューバ関係の著訳書も多いラテンアメリカ現代史研究者(神奈川大学名誉教授)による最新の総括的な解説書。
〔桜井 敏浩〕
(明石書店 2016年12月 318頁 2,800円+税 ISBN978-4-7503-4457-7 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016/17年冬号(No.1417)より〕