ラテンアメリカで初めて独立したハイチ共和国は、1864年にフランスより世界で初めて元黒人奴隷によって初めての建国した国であった。フランス領サン=ドマングと呼ばれた植民地の独立運動の先駆者であるトゥサン・ルヴェルチュールの実像を、フランスの植民地史を専門とする歴史学者が描いたもの。
トゥサンの出自、生い立ちから解放奴隷の自由民になり、スペイン軍勤務を経てフランス軍で初の黒人将軍に昇進し、サン=ドマング総司令官、ナポレオン・ボナパルトによって総督に任命されたが、サン=ドマング憲法を発布し終身総督になったことがボナパルトの逆鱗に触れ、フランス軍に敗れてフランスに送られ東部の要塞で拘禁生活のうちに獄死した生涯を、特にこれまでの類書にない前半生を詳述している。これに加えて、アフリカから拉致されて来た黒人奴隷の生活、18世紀後半の植民地における奴隷制度とフランス革命による植民地への影響、ボナパルトによる奴隷制度復活、混血度による奴隷たちの身分差などだけに留まらず、独立にともなうフランスへの賠償金の支払い、諸外国からの承認の遅れ、米国の軍事占領などについても記述している。
ハイチ独立の英雄であるトゥサン=ルヴェルチュールの人物とともに欧州による植民地と奴隷制の歴史を知る上でも有用な参考文献。
〔桜井 敏浩〕
(ジャン=ルイ・ドナディウー 大嶋 厚訳 えにし書房 2015年11月 286頁 3,000円+税 ISBN978-4-908073-16-8 )