第二次世界大戦が終わって間もなく、本国との連絡の途絶によってブラジルに住む日本人移民は、母国の敗戦を事実として受け止めた「負け組」と依然負けていないと盲信する「勝ち組」とに二分され、その間の対立によって双方で170人もの死傷者を出し、ブラジル当局の介入を招くことになった。「勝ち組」は日本移民の7割以上が賛同していたといわれ、戦後70年を経た現在においても、日系移民社会ではトラウマとして触れたがらない人は多い。
本書はサンパウロで発行されている邦字紙ニッケイ新聞の編集長が、双方の重要人物、遺族に地道かつ真摯な取材を重ねて、抗争の実情、日本人移民と遠隔地のナショナリズムを問い糾しているが、勝ち組の多くは帰国を望みながら叶わず抱いた故郷喪失感と郷愁、ブラジル社会への不適応の心の傷と負い目からくる圧迫感が、敗戦によって止めを刺されて爆発したのがこの抗争ではないかと指摘している。ルセフ政権下の2014年に立ち上げられた「真相究明委員会」で軍政時代の人権侵害とともに戦時中の日本移民迫害が取り上げられたことから日系移民子孫たちが真相を知り不当な差別を究明しようとしている動きまで言及している。ブラジル日本人移民史の一面を知る上で有益な、優れたルポルタージュ。
〔桜井 敏浩〕
(無明舎出版 2017年3月 276頁 1,800円+税 ISBN978-4-89544-624-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』2017年春号(No.1418)より〕