【演題】ベネズエラ-危機下における平和の模索
【日時】2017年5月29日(月)15:00~16:30
【場所】フォーリン・プレスセンター
【講師】セイコウ・ルイス・イシカワ駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使
【参加者】71名
今日、原油埋蔵量で世界一を誇るベネズエラの経済が深刻な危機を迎えているとの報道が連日絶えません。しかし、同国の実態が全て正確に伝えられている訳でもありません。今般、ラテンアメリカ協会では、2005年から駐日ベネズエラ大使を務められている日系二世のセイコウ・イシカワ駐日大使をお招きし、ベネズエラの現状と政府の政策対応についてご講演をいただきました。概要は以下の通りです。
■最近、メディアによって伝えられるベネズエラに関する記事によって、我が国が崩壊寸前の危機的状況にあると捉えられているが、ベネズエラの現状は政治的、経済的、社会的に複雑であり、報道は事実とは異なる。
■世界一の石油埋蔵量を誇るベネズエラの経済は石油に多くを依存する経済であったが、石油価格の下落によって外貨収入が大幅に減少し、モノ不足とインフレに陥った。
■インフレの要因の一つは、固定為替制度を採ってきたベネズエラで複数の公式為替レートが採用され、さらに並行市場や闇市場が立ち上がるなどにより為替レートが急落したことにある。
■この経済危機に際して、ベネズエラ政府は地方供給生産委員会、(CLAP=Comité Local de Abastecimiento y Produccion)を組織し、貧困層に食料や日用品を低価格で提供するようにした。これまで国民の60%に相当する600万世帯がその恩恵に浴している。
■こうした社会政策はチャベス時代に計画されたもので、その成果はUNDP(国連開発計画)の人間開発指数(HDI)の改善に表れており、2015年のベネズエラの同指数はラテンアメリカ地域の平均値を上回り、コロンビア、ペルーよりも上位に位置した。また、ジニ係数も減少傾向を辿っており、2015年にはラテンアメリカのどの国よりも低い数値となった。
■経済危機は石油依存を脱却する機会ともなり、現在、政府は「祖国の計画(Plan de la Patria)」と「ボリバル主義経済計画(Agenda Economica Bolivariana)」によって、原油一本に依存しない経済の多角化を図ろうとしている。その一つが「Arco Minero del Orinoco」(オリノコ鉱物弧状帯)の鉱業開発であり、金、ダイヤモンド、コルタン、鉄、ボーキサイトなどの埋蔵が確認され、開発が始まっている。ロシア、カナダ、豪州、南ア、中国などの外国企業も参加に強い意欲を示している。
■国内の混乱の一端は、議会の多数を占める野党の党利党略的で非協力的な姿勢に負う部分が大きい。国家危機からの脱出に向けた一致連帯した姿勢とは言えない対応が多い。ICS(International Consulting Services)社による5月8日から15日にかけての世論調査は、調査対象者の81%が4月以来の反政府デモに対して否定的という結果を示している。現在行われているベネズエラの社会政策モデルはどこにも例がなく、その成果が現われつつある。
■講演後、フロアから複数為替レートによるビジネスの難さ、日本人のベネズエラに対する誤解、メディアの報道姿勢、OAS(米州機構)によるベネズエラ追放の動き、三権分立、特に司法の独立性、政府と軍の関係、長期的な「ボリバル主義経済計画」、現下の危機脱するための具体的施策など、多数の質問が出された。 (要旨執筆は当協会事務局)
【配布資料】
なお、本講演の説明資料はラテンアメリカ協会のホームページに掲載される(会員限定)。
■「危機下における平和の模索」(PDF)
駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使
セイコウ・イシカワ 作成
セイコウ・ルイス・イシカワ 駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使
会場の様子