上智大学外国語学部ポルトガル語学科が1982年に開講されて以来培ってきた「ブラジル社会論」の蓄積と、これを出発点に研究者となった6人の卒業生等による地域研究ブラジル社会の研究入門書。
第1章では社会形成の歴史として、大土地を所有する植民者と奴隷、階級社会と人種、多文化社会、多様性の承認を、第2章の社会制度では、カトリック文化の中で教会と家族制度の変化を、第3部の社会的公正への挑戦では、都市化と人口移動、1988年憲法以降の民主化と貧困層への現金給付制度、教育・保健制度、社会運動の力、女性のエンパワーメントとジェンダー平等を、第4章は一転してグローバル化とブラジル人のディアスポラを、米国や日本でのブラジル人社会の実情とともに紹介し、これらに13の多岐な題材をあつかったコラムとともに論じている。
執筆者はいずれもブラジル研究に長く関わり、ブラジルに深い愛着をもっているだけに、個々の項は入門書とうたっているが実に奥行きの深い解説になっている。比較的コンパクトな読みやすい本だが、ブラジルについての理解を深める良書である。
〔桜井 敏浩〕
(上智大学出版発行・ぎょうせい発売 2017年5月 250頁 2,100円+税 ISBN978-4-324-10259-6 )
〔『ラテンアメリカ時報』2017年夏号(No.1419)より〕