国際貿易港門司に生まれた主人公勝呂(すぐろ)は、1963年に同地で刺殺されたフリオという外国人が最後に発した「カルタヘーナ」という言葉と、城塞の監視塔を背景に撮られたフリオの家族写真を手懸かりに遺族を探せという父親の言葉を気にかけていたが、カルタヘーナがコロンビアにもあることに気付きやっと訪れたのは、1990年勝呂が電子機器メーカーの仕事で渡航した時だった。監視塔を持つ城塞は、スペインやポルトガル等のカリブ海や中南米等の旧植民地に数多く存在することを知って、彼は機会を見つけては各地を訪れたが、フリオの家族を探していく過程で、スペイン国王フェリーペ二世のエメラルド・タブレット伝承の存在を知る。かつて海賊ドレイクも執拗に探し求め、現代でも追い求めている者たちがいるタブレットを探して、コロンビアのボゴタ、ドミニカ共和国サントドミンゴ、キューバのハバナ、スペインのセビーリャ、メキシコのベラクルス、プエルトリコのサンファン等々を訪れ、コロンブスの遺骨の再三の改葬の謎を知り、コロンブスの新大陸へ向けての最初の航海から加わったピンソン3兄弟の末裔との出会いがあった。
勝呂の失われたタブレット探しは、本書では未完で終わっている。本書がユニークなのは、随所にある案内にしたがって著者のHP https://www.losttablet.com/ のビジュアル・ガイドにリンクすれば、多くの関係の写真をみることができるばかりではなく、本書の続編、最終章まで見ることができるという仕掛けにある。
著者の長いラテンアメリカ等でのビジネスや技術協力に携わってきた経験と知見による現地事情の描写やラテンアメリカの人たちとの掛け合い、歴史の知識の披瀝、蘊蓄が、小説としての面白さを凌いで実にふんだんに織り込まれている。
〔桜井 敏浩〕
(文芸社 2017年4月 418頁 1,600円+税 ISBN978-4-286-18147-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』2017年夏号(No.1419)より〕