20世紀ブラジルで活躍した芸術家の中に、画家マナブ・マベ、トミエ・オオタケをはじめ少なからぬ日系美術家がいて高く評価されている。本書はブラジル芸術の中で、絵画と日系芸術家グループの「聖美会」に焦点を当て、ブラジルにおける日系芸術とはどういうものか、ブラジルのモダニズムから生まれた「食人主義」(先住民にあったといわれる食人風習とその後流入した西欧文化を対比させ、ブラジル文化は西欧の影響を受けたのではなく、西欧文化を食らって自国の血肉としてきたという主張)概念を鍵として、「日本人」の芸術がいかに「ブラジル的」となり得たかを、丹念にポルトガル語、日本語資料と関係者への聞き取りにより解明しようとしたもの。
巻末には、移民と芸術に関する出来事を整理した年表、事項・人名索引とともに、2016年2月に亡くなったトミエ・オオタケへの2013年のインタビューをはじめ、画家、彫刻家、日系芸術家作品を中心に扱っているサンパウロの画廊オーナーとの対談要旨、1951年の第1回サンパウロ・ビエンナーレに寄せた聖美会カタログ、オズワルド・デ・アンドラーデの『食人宣言』の初訳等の資料も付けられている。著者は京都に生まれパリで育った、ブラジルのモダニズム芸術、日系人芸術の研究者。
〔桜井 敏浩〕
(三元社 2017年3月 244頁 4,200円+税 ISBN978-4-88303-424-6)
〔『ラテンアメリカ時報』2017年秋号(No.1420)より〕