現行の国際貿易秩序は、自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)を含む地域貿易・経済統合の深化と促進が特徴である。これらが先行しているのがメキシコと南米であり、それらをふまえてさらにアジア太平洋地域へ進出させる意図をもつのが環太平洋パートナーシップ協定(TPP)である。
第Ⅰ部北・中米編では、そもそも経済大国である米国の世論がなぜ自由貿易やTPPに懐疑的もしくは反対なのかを、NAFTAの下で生じた産業・雇用問題を検討することで、トランプ大統領の見直し主張の背景の一端を示している。北米の経済先進国と途上国3か国による画期的な北米自由貿易協定(NAFTA)が、メキシコの貿易と農業、新自由主義的開発政策下での製造業といった経済社会に及ぼした影響を論じている。第Ⅱ部南米編では、米州貿易秩序の歴史的変遷と再編、新たな域内地域主義と域外貿易関係、直接投資の動向、資源開発と貿易を米州地域とブラジルの事例で検証し、新自由主義とポスト新自由主義の相克、ベネズエラのチャベス主義運動により始まったポスト新自由主義レジームの現在の局面と課題、そして米州からアジア太平洋地域への進出の橋頭堡を目指したTPPについてNAFTAとTPPの類似点と相違点と日本への影響を論じている。最後に高水準の自由貿易や資本移動自由化を追求する新自由主義的貿易協定によって所得格差と貧困、地域的な二極分化が深化したことから、「市民」目線に立った貿易、土地・国土の保全と食料主権・食料安全保障の確立、貧困国や難民に対する国際協力貢献に努めるべきとしている。
〔桜井 敏浩〕
(法律文化社 2017年9月 270頁 3,000円+税 ISBN978-4-589-03864-7 )